2010年10月の御題について

「依り代<よりしろ>」の御題は万葉集165(巻二)大伯皇女
「うつそみの人にある我れや明日よりは二上山を弟背(いろせ)と我が見む」

たった一人の同母弟・大津皇子を粛正で喪った大伯皇女が残した、いくつかの深い哀しみの歌のひとつです。大津の亡骸が、藤原京の西に位置する二上山に移葬されたときの歌だそうです。

そんなにも深い哀しみは、抑えても抑えても復讐と呪いの思いに変化してゆくということが、果たしてなかったのか。

夫亡き後あまりにも素早く粛正を遂げた叔母・持統女帝。
彼女は、自らの産んだ草壁皇太子とその子孫による末永い皇統相続を望んでいました。斎宮を務めた強い霊力の持ち主たる皇女の復讐心が即位前に皇太子を病死させ、その後も、時を越えてその子孫に取り憑き、女帝の夢を打ち砕いたのだとしたら?

……そんな空想からこのうたを書いてみました。

「月」は三秋の季語です。
日本画教室の夜のコースに通っている私には、北国の日が短い秋から春にかけて、空を見上げるといつもそこに見つかる、親しみ深い存在です。