万葉集919(巻六)山部赤人
「若の浦に潮満ち来れば潟(かた)をなみ葦辺(あしへ)をさして鶴(たづ)鳴き渡る」より

御題等について、詳しくは補記をご覧ください。

葦鶴<あしたづ>

  わだつみ空と出逢ふ先
  重なる青の向かふから
  伸ばした首を撫でる風
  歌ふかのよに吹いて来て
  浪花(らうくわ)を頬に散らします
  賑(にぎ)はふ潟(かた)に漁(あさ)るとき

  静かに潮は満ちて来て
  火影(ほかげ)が里に灯ります
  水面(みなも)も凪いで来たならば
  近く遠くのはらからは
  暮れる暮れると鳴き交はし
  列なして羽根広げます
  晩の風へとかはる頃

  潟も消えると羽ばたけば
  頼む塒(ねぐら)の葦辺へと
  招(を)かるるやうに舞ひ上がり
  波の行きつくその際(きは)へ
  水の上(へ)低く身は翔(かけ)る

  明日へ生命(いのち)を繋ぐ今日
  潮干(しほひ)の潟(かた)に漁(あさ)りして
  辺(へ)つ波(なみ)寄せて来たならば
  愛(を)しき族(うから)を呼ばひます
  細魚(ささうを)は疾(と)く飲みくだし
  白い翼にはらむのは
  天へと帰る宵の風

  頼む塒(ねぐら)の川岸へ
  図絵(づゑ)に描かるる葦辺へと
  鳴き交はしつつ羽ばたいて
  きらきら雫散らします
  わだつみ空と睦(むつ)む頃
  鶴(たづ)なる我ら集ふ浅瀬に
  瑠璃色の闇迫ります

      季語「冬紅葉」より

冬紅葉

  吹く風にひるがへりつつ
  行き交ふ人に散りかかり
  もう雪が降るその前に
  見渡す限り赤と黄色で
  地面に錦織り渡す