2010年10月のあはひうた

      万葉集165(巻二)大伯皇女
「うつそみの人にある我れや明日よりは二上山を弟背(いろせ)と我が見む」より

御題等について、詳しくは補記をご覧ください。

依り代<よりしろ>

  薄墨流す東雲に
  月がか細く浮かび来て
  そつと過ぎ行く野の風は
  御墓(みはか)に眠る我が背子の
  残しし衣を揺らします

  久しく会はぬ日々の果て
  捕らへられ死を賜はりて
  西の峰(を)の上(へ)に今ひとり
  ある我が背子の魂の
  流浪の先を想ひます
  我が身も半ば失ひて
  恋々と古(いにしへ)を恋ひ
  止まぬ思ひに憑かれます

  ああ我が背子の命より
  皇孫(すめみま)の皇太子(ひつぎのみこ)の
  世をのみ ただに大事とは
  流血の世を領(うしは)いて
  果てもなくゆけるものかは

  塞げども塞ぐ能はず
  絶えざる思ひ溢れます
  神風の伊勢に仕へし
  身を依り代にし賜ひて
  山の御墓の我が背子よ
  迷はず君の哀傷(かな)しみを
  叔母君(をばぎみ)に味ははすべし

  今は得意の血脈を
  櫓も櫂もなくゆく舟の
  瀬に迷ふごと迷はしめ
  杜絶せしめよと騒ぐは
  我か 背か わづきも知らず
  娥影儚き東雲に
  身の慄くを止むる術なく
  昔の夢を手繰ります

      季語「つき」より

  詳らかにはせぬ哀しみが
  君にもありて秋夜空