2011年2月の御題について

「堅香子」の御題は万葉集4143(巻十九)大伴家持
「もののふの八十(やそ)娘子らが汲み乱ふ寺井の上の堅香子の花」

ここでいう「井」とは、つるべで水を汲みあげる「井戸」ではなく、自然の川や泉の流れの途中に水が溜まるような場所を作って(つまり水を「居」させて)人が水を汲めるようにしたところ、水汲み場のことです。「もののふの」は「八十」の枕詞。口語訳すれば、「数多の娘たちが入れ替わり立ち替わり水を汲みに訪れる寺の水汲み場の上に咲いているかたくりの花よ」といったところでしょうか。

初春の季語「堅香子(かたかご)の花」は、大人になって今の町に引っ越してきてから生まれて初めて見て、とても好きになりました。万葉の頃、寺井を見下ろすように、その脇の林の縁の斜面に咲いていたのであろう、かたくりの花の可憐さが目に見えるようです。けれど、人からの見た目で安易に「可憐」と言っても、種が落ちてから十年の歳月をかけて花を咲かせる、芯の強い命なのだそうです。

2月には、雪国ではまだなかなか実感できませんが、既に暦の上では春。土の中の無数の生物たちや命の循環に、何となく思いを馳せる季節です。このうたはそんな気分で書いてみました。

「ふふむ」は「花や葉がまだ開かないでいる」、「含霊(がんれい)」は「霊魂を持つもの、人類、一切の衆生」、「碧落」は「青空、大空、遠い所」だそうです。

「薄氷」は初春の季語です。私の育った東京でも、子供の頃には、寒い朝、水溜まりに氷が張りました。その上を歩いて遊んでいて、転び、割れた氷で膝が血まみれになる怪我をしたのも、今は思い出です。私の膝には、今もその時の傷がうっすらと残っています。