2011年2月のあはひうた

      万葉集4143(巻十九)大伴家持
「もののふの八十娘子らが汲み乱ふ寺井の上の堅香子の花」より

御題等について、詳しくは補記をご覧ください。

堅香子

  萌え出でたるは せせらぎの
  野渡る風と揺れ遊び
  昇る煙のその先に
  ふふめる木(こ)の芽光る春
  伸び立ちて今花開く

  八百(やほ)の命の連なりの
  その一輪の種落ちて
  娘子(をとめ)らの水(もひ)汲む井の上(へ)
  十年(ととせ)の冬を待ちて咲く
  めでたき今日の慶びよ
  羅衣(らい)の薄雲棚引けば
  含霊(がんれい)なべて春を知る

  種々(くさぐさ)の種(たね)宿らせて
  深雪(みゆき)の下に温かき
  真土(まつち)を成せる命たち
  含霊頼む営みは
  ふふむ木の芽を綻ばす

  寺井にそそぐ せせらぎに
  羅衣の朝靄かかるとき
  居待ちの月の落ち泥(なづ)む
  野末の鳥も歌ひ初む
  生まれて枯るる運命(さだめ)とて
  碧落(へきらく)に雲棚引けば
  残る命を咲き誇れ

  仮り初めの間を咲き交はし
  訪ね来たるに頷ける
  堅香子と我生まれたり
  五穀育(はぐく)む日の光
  残りなく受け照り遊ぶ
  春の林のほとりの井の上
  なべて命の巡る世に

      季語「薄氷」より

薄氷<うすらひ>

  唄うたはんと踏む人の
  進みと共にひび割れて
  乱反射する初春(はつはる)の日の
  光を靴に絡ませる