2012年7月の御題について

「夏月夜<なつづくよ>」の御題は万葉集1953(巻十)詠み人知らず
「五月山(さつきやま)卯の花月夜(うのはなづくよ)ほととぎす聞けども飽かずまた鳴かぬかも」

口語約すると「(旧暦)五月の卯の花香る月夜に鳴くほととぎすの声はどんなに聞いていても飽くことがない。また鳴かないかなあ。」といったところでしょうか。

「卯の花」は初夏の季語ですので、歳時記の上から少々季節外れになってしまっていますが、以前から夏になったら取り上げたいと思っていた歌です。

初めて読んだとき、「何だか欲張りな歌だな」という印象でした。「卯の花」も「(夏の)月」も「ほととぎす」も詰め込んだ、盛りだくさんの歌。ただ、それら全てが絵のように調和して、ほっとする風景が心に描き出される、そんな魅力があります。

それは古(いにしへ)の人たちにとっても同じだったのか、この歌は連綿と語り継がれたようで、『新古今和歌集』の巻第三にも「五月山(さつきやま)卯の花月夜(うのはなづくよ)ほととぎす聞けども飽かずまた鳴かむかも」と、ほんの少しだけ形を変えて採られています。

心に抱いていくことにも痛みを伴うけれど、忘れてしまうのも悲しい…、時としてそんな思い出が、誰の心にも生まれることでしょう。人それぞれに、軽んずることのできない想いがあることを忘れずにいられたらと思います。

以前から私のうたには、何とはなしに「残してゆきたいもの」が現れることが多かったのですが、3.11以来、その傾向はますます強くなりました。ただ、前回の「清流<せいりう>」、その前の「春宴」と、「月夜のうた」が続きましたので、次はできれば昼間のうたを書きたいと存じます。

「衣(きぬ)」は「着物」、「袂(たもと)」は「袖」、「か黒(ぐろ)し」は「黒い」、「日長(けなが)し」は「時日が長い」ということだそうです。

「桜桃<あうたう>」の御題「桜桃」は「さくらんぼ」のことで、仲夏の季語です。

私の大好物で、夏はこれを求めに郊外の農家をお訪ねするのを楽しみにしています。