2012年7月のあはひうた

      万葉集1953(巻十)詠み人知らず
「五月山(さつきやま)卯の花月夜(うのはなづくよ)ほととぎす聞けども飽かずまた鳴かぬかも」より

御題等について、詳しくは補記をご覧ください。

夏月夜<なつづくよ>

  五月(さつき)小夜中(さよなか)吹く風は
  蔦の若葉と遊びます
  衣(きぬ)の袂(たもと)のなびくさき
  止んだ小雨のその後に
  まあるい夏のお月さま

  卯の花ふはり揺れ匂(にほ)ふ
  野道へ続く月の庭(には)
  離れがたくて古里の
  夏のお山を眺めます
  頭上(づじやう)の雲も晴れわたり
  くまなく満ちる月明かり
  夜道に花は揺れ匂ふ

  ほのかに浮かぶ山影の
  遠く か黒き木立には
  鳥がしきりに鳴いてます
  銀の光のひとすじを
  吸つては声(こゑ)を紡ぎ出し

  聴き入る夜の不如帰(ほととぎす)
  日長(けなが)き想ひ詠ふ歌
  どんな命も旅の空
  もう帰れない思ひ出も
  飽かず光と紡ぎ出し
  重なる今に溶かします
  ずつと心にあるやうに

  まあるい夏のお月さま
  旅行く鳥に歌はせて
  懐かしい庭照らします
  彼方へ続く野道より
  濡れてほのかに香(かを)り来る
  重ねた今に開く卯の花
  もうすぐ盛り迎へます

      季語「桜桃(あうたう)」より

桜桃<あうたう>

  朝陽を浴びてつやつやと
  熟れて色づき笑ひます
  玉の双子を口に含めば
  潤(うるほ)ひ甘くはじけます