2012年 日本画のあはひうた

      万葉集1791(巻九)遣唐使の親母
「旅人の宿りせむ野に霜降らば吾が子羽ぐくめ天の鶴群」より

御題等について、詳しくは補記をご覧ください。

鶴占<たづうら>

  旅立ちの日の難波津に
  美々しく装ひたる船の
  緋の檣(ほばしら)の鮮やかさ
  遠き海路(うみぢ)を往く吾子の
  乗るその船よ幸(さき)くあれ

  倭を離(さか)る大船は
  怒涛の海をめざします
  律令の世を支へむと
  せば遥かなる唐国(からくに)の
  無二の都に学べよと
  残る鶴鳴く難波津を
  荷を倉も狭に載せて発ち

  繋に竹玉貫き垂れて
  瓮(もたひ)に木綿を取り垂でて
  更かして我は斎(いは)ひます
  浪波(らうは)荒きを越えてなほ
  万里の果てのその旅路

  天翔ける大御神たち
  賀宴に貢奉らむと
  凍ゆる旅寝せむ人を
  羽ぐくみ守り愛でたまへ
  群鶴にその身を変へて
  国つ御神よ鶴が音に
  めでたき験示しませ

  天地の大御神たち
  愛でませ吾子のその船を
  残る鶴鳴く難波津を
  旅人まさに船出せむ
  づしやかに水面を割きて
  群立つ鳥のその導きに
  浪波荒きを越えむとて