2011年4月のあはひうた

      万葉集1873 (巻十)出典未詳
「いつしかもこの夜の明けむ うぐひすの木伝(こづた)ひ散らす梅の花見む」より

御題等について、詳しくは補記をご覧ください。

萬夜<よろづよ>

  今菜の花に ふうはりと
  月の光がかかります
  城の凍れる函(はこ)の中
  仮死の眠りにある人ら
  守(も)る人形(ひとがた)の我が手にも

  この星中(ほしぢう)にその昔
  野の鳥 獣 水底(みなそこ)の
  萬(よろづ)の魚をりました
  残らむ毒を顧(かへり)みず
  明け暮れ傲(おご)り人の子は
  今日の景色を生みました
  無人の地上 佝僂(くる)の森

  美しかりし村々は
  臥病(ぐわびやう)の毒の蔵と化し
  人 幾人(いくたり)か 星去るも
  末裔(すゑ)に渡すも忍びずと
  偃(のきふ)し時を待ちました

  この萬代(よろづよ)に見る夢は
  頭上(づじやう)木伝ふ鴬が
  たゆたふ水に散らす花
  ひらり春日(はるひ)にひるがへり
  近く遠くの空に映(は)ゆ
  朗々(らうらう)と子ら歌ひゆく
  末野の道に風吹いて

  生まれは人の人形(ひとがた)の
  眼に映り来る朧月
  残る務めの萬代は
  果て無き如く思はれて
  菜の花土を洗ふ野を
  見せて冷たき仮想の窓に
  向かひて風に焦がれます

      季語「春日傘」より

春日傘

  花びら厭ふ意にあらず
  留守守(も)る我へ土産とて
  人差し出ししものなれば
  学童通る並木の道を
  差して歩いてみてゐます