2011年7月のあはひうた

      万葉集280 (巻三)高市連黒人
「いざ子ども大和へ早く白菅の真野の榛原手折りて行かむ」より

御題等について、詳しくは補記をご覧ください。

榛原<はりはら>

  いつかの風に舞ひあがり
  雑木(ざふき)の森をぬけました
  この草原の夕映えの
  緞子(どんす)の上に舞ひ降りて
  萌え出でん日を待ちました

  やがて数多のはらからと
  真日照る下に芽を吹いて
  ともに空へと伸びました
  隔てる国に思ひなく
  果てん後への図(はか)りなく
  休らふ雲を見霽(みはる)かし
  草吹く風に吹かれます

  白菅揺れて鳥啼いて
  落照(らくせう)枝を染めるころ
  過ぎ行く時はありのまま
  げにきららかに降りつもり
  野末に星は昇ります

  真日照る原に芽吹きただ
  伸び行かんとて伸びました
  野を肥しつつ疾(と)く生(お)ふる
  榛なる我をめでたしと
  旅中(りよちう)に手折り挿頭す人
  榛摺りせんと詠ふ人
  落照の野を過ぎました

  ただ日を浴びて榛原の
  踊(をど)る若木と生まれ来て
  旅装(りよさう)の人を休らはせ
  天へと幹を伸ばします
  逝く時のまに倒(たふ)れん日
  川のほとりに命を継いで
  無窮の塵に帰ります

      季語「不如帰」より

不如帰

  ほの暗く雨降る山に
  時おかず鳥啼いてます
  とみに切なく歌ふのは
  銀色の靄(もや)隔てた昔
  すべて萎んだ夢のこと