2011年8月のあはひうた

      万葉集1068(巻七)
「天の海に雲の波立ち月の舟星の林に漕ぎ隠る見ゆ」より

御題等について、詳しくは補記をご覧ください。

かぜのうた

  朝のお空に光る星
  雌馬がそつと見てゐます
  野を吹き渡る風の歌
  売られた仔馬偲ばせて
  短い夏を終らせて
  にはとこの実を染めてます

  雲の一片(ひとひら)ふと見ては
  も一度会ひたいあの子かと
  野を吹き渡る風の中
  名前を呼んで見てゐます
  三日月かかる空の上
  たちまち形変へる雲
  ちらりと泪覗きます

  月は白金(しろがね)日は黄金(こがね)
  昨日の夢は草の色
  野を吹き渡る風の歌
  ふはりと耳を撫でて過ぎ
  眠る仔馬をほほ笑ます

  星残る朝の牧場で
  静かに空を見る雌馬
  野を吹き渡る風疾(はや)く
  遥かな山の蒼み帯び
  やがて目を伏せ横たはる
  白い雌馬の頬撫でて
  にはとこの実を色付かす

  小舟の月は中空を
  銀色淡く漕ぎ渡り
  帰らぬ日々を運び去る
  草原(くさはら)を吹く風疾(はや)く
  瑠璃色光る露散らし
  身を横たへた雌馬にそつと
  夢の終りを歌ひます

      季語「糊卯木(のりうつぎ)の花」より

糊卯木

  残りの夏のまぶしさを
  流水の波頭(なみがしら)より
  写した花にあつめます
  次に逢ふ日を待つ夕暮れは
  玉兎の影を纏ひます