2011年10月のあはひうた

      万葉集88(巻二)磐姫皇后(いはのひめのおほきさき)。
「秋の田の穂の上に霧らふ朝霞いつへの方に我(あ)が恋やまむ」より

御題等について、詳しくは補記をご覧ください。

客人<まれびと>

  暁闇(あかときやみ)の向かふから
  霧流れ来て灯火(ともしび)を
  芒 はね散らす田にかかり
  訪ね来て佇む女人(ひと)の
  伸ばした腕にかかります

  穂波を覆ふ朝霞
  残る想ひを抱く女人の
  腕に冷たく柔らかく
  経(へ)泥む時に立ち尽くす
  苦い痛みを包みます
  訊きたいことは哀しみが
  羅袖いつまで濡らすのか
  不如意に霧らふ現し世に

  茜に染まる東雲に
  鷺は目覚めて飛び来たり
  川面(かはも) にはかに騒ぎます
  過ぎにし時はそのままに
  水辺に命 行き紛ふ

  いつまでも恋ふる想ひは
  続くとしても今はただ
  経泥む時に身を任せ
  残る命を生きませう
  川辺の稲田 山紅葉
  訪ね来る鳥 少しづつ
  苦い痛みを散らすでせう

  茜に染まる空の下
  楽を奏でて夜を明かす
  蟋蟀(こほろぎ)の見た客人は
  秘かに宿へ帰り行き
  柔らかく延(は)ふ朝霞
  また昇る日に散りゆく頃は
  無数の稲穂 謳(うた)ひます

      季語「紅葉」より

紅葉

  もう一晩で赤黄色
  道の辺に散る木の葉ひらひら
  地蔵様にも舞ひ降りる