2012年2月のあはひうた

      万葉集1433(巻八)大伴坂上郎女
「うち上(のぼ)る左保の川原(かはら)の青柳は今は春へとなりにけるかも」より

御題等について、詳しくは補記をご覧ください。

春宴

  歌ひ騒ぎて舟の上
  近づく岸に袖を振り
  上(のぼ)る流れの逆巻くを
  雪洞(ぼんぼり)照らす その下(もと)で
  瑠璃(るり)の杯(さかづき)乾(ほ)す人ら

  小夜更けて月出でたるを
  ほのかに蔽(おほ)ふ雲ありて
  野末(のずゑ)に墨を引く山も
  川原に揺るる若草も
  芳気(はうき)を帯びて柔らかく
  羅帷(らゐ)の向かふにあるごとし
  上る流れは速くして

  泡立ちて往く佐保川の
  踊(をど)る乙女(をとめ)を偲(しの)はする
  柳に萌ゆる浅緑(あさみどり)
  銀鼠(ぎんねず)の靄の向かふに
  芳気を帯びて柔らかし

  今や明けむとする空に
  眩(まばゆ)く映ゆる浅緑
  芳気の中をうち上(のぼ)る
  春の宴の船の上
  瑠璃の杯交はすのは
  萍桂(へいけい)の その裏側で
  永久(とは)に坐(ましま)す国つ神

  名残りの雪の舞ふ中に
  嚠喨(りうりやう)たるは笛の音
  錦を纏(まと)ひ酌み交はす
  今日(けふ)の命の歓びは
  瑠璃の杯溢れ出で
  川の辺(ほとり)の春を言祝(ことほ)ぐ
  萌えわたれ その浅緑

      季語「山桜桃」より

山桜桃<ゆすらうめ>

  揺るる木漏れ日 夏木立
  涼しき午後の園生(そのふ)にて
  来客あるを知るごとく
  潤(うるほ)ひ光る玉飾りせり
  愛でよ我をと誇りつつ